エッセイ
「シェーカーの椅子のこと」
銅版画 「森の詩」
ひらくの銅版画作品にはよく大きなテーブルとシェーカーの椅子が登場します。
ひらくはシェーカーの椅子が大のお気に入りだったようで、シェーカー家具との
出会いを次のようなエッセイに記しています。
愛用したシェーカーの椅子
「シェーカーの椅子」のこと
私がよく絵のモチーフにしている椅子は、シェーカーの椅子である。
シェーカーとは1800年代にアメリカの各地にコロニーを作って、厳しい戒律のもとに、すべて自給自足の生活を送りながら、その一生を神に捧げた清教徒の一派である。彼らが作り、日常使用していた家具類も機能性を追求しながらも、デザイン的にも簡潔で美しいものであった。
その厳しいまでに美しい形に惹かれて絵のモチーフに採り入れてきたが、この椅子だけは手元にないので、雑誌の写真から想像して絵にして来た。
ところが偶然に私は、シェーカーの家具類を復元製作しているグループが日本にいることを知った。
9月のはじめ、遅い夏休みをとってその工房を訪ねた。過疎の村の廃屋を改造してその工房はあり、藤門氏をはじめ七、八7、8名のグループが家具を作ったり織物をしたり農耕をしたりして羊や牛や鶏や犬やそして猫たちと生活していた。
私は椅子の出来上がる様子を見せて頂いたり動物達や草花など多くのものをスケッチさせて頂いて夕暮れの中、そこを辞したが、何か一途にひとつの完成をめざして暮らす「アリス・ファーム」の人々に心を打たれ、その厳しさが頭から離れず、その夜の高山での宿は、なかなか寝つかれないものであった。